災害の人類学

災害の人類学は、人類学的な手法・観点からの災害研究です。この研究は、より具体的には、次のような特徴を持っています。

ひとつは、持続的で多面的な調査です。災害というと多くの場合、災害発生の直前あるいは直後の様子ばかりがクローズアップされます。しかし、そこでのとっさの対応をほんとうに理解するためには、その地域の人びとの暮らしや人間関係、ものの考え方という、より大きなコンテクストのなかで捉える必要があります。災害の人類学は、地域の人びとと長期的につきあいながら、その地域社会の固有性のなかで災害を捉えることを目指しています。

もうひとつは、調査データと観察の統合です。上で述べたような調査においては、被災者や行政など、災害に関わる様々な人からの聞き取りが主な手法になります。これに加え、人類学ではこうしたデータを、他地域の事例にもとづく研究者自身の観察と統合することで、より深い災害の理解を目指します。私(木村)は、地震国であるトルコ共和国における都市防災についての継続的な調査を進めており、それとの比較を通じて日本の防災を研究しています。

いま、どのような地域も災害とうまくつきあいながら生きていくことが必要になっています。そうした状況において、人間という存在のもつ普遍性とその生の多様性を明らかにする学問としての人類学が持つ役割は決して少なくありません。